よく自分は最初からパッシブネットワーク一本の人間みたいに思われがちですが、実は元々超マルチ大好き人間で「フロント3ウェイ化しないとよい音は出ない。」とか「マルチアンプでないとカーオーディオではない。」ぐらいの勢いでした。そんな自分のオーディオ観を180度変えてしまったのは、イギリス・アビーロードスタジオを代表に各有名レコーディングスタジオにてモニターで使われていたB&W801との出会いでした。
初めは複雑なマルチシステムの調整の音の目安にするために導入したのですが、店頭でBGМに使っていると、自分の耳が肥える前に常連のユーザーの耳が肥えてしまい、「ここの音域がこう違う」とか「ボーカルに温かみが無い」とか、今までに無かった不満があふれてきました。
ユーザーの声に応えるべくクロス周波数の調整やゲイン調整などに精を出しても自分もユーザーも納得のいく音が出ず「こんなスピーカー買うんじゃなかった。」と思ったほどでした。しかし、毎日801のスピーカーを聴いていたらあることに気がつきました。それは、ツィーターとミッドをチャンネルディバイダーでクロスさせると500Hzステップでしか周波数を変更出来ないので、もしその中間に美味しいポイントが有っても妥協するしか方法がありませんでした。しかし、パッシブでコイルの値を1μヘンリーで刻むと、約31Hzステップとなり、チャンディバの15倍にクロスポイントを増やす事が出来て、今までに表現出来なかった音の世界に入る事が出来ました。更にハイパス側のコイルとコンデンサの比率を変えるとインピーダンスを変える事が出来、音色を鋭くしたり柔らかくしたりと、新しい表現が可能になりました。最初から完璧な物が出来た訳ではなく、1セット作っては四、五人のユーザーに集まってもらって毎週の様に試聴会を行って、また改善しての繰り返しで、二ヶ月位で自他共に納得のいく作品が出来ました。
ネットワークの製作に当たっては、コイルの精度とレパートリーの種類には業界に例を見ないほどのこだわりを持っていて、十年後には国際標準化機構の品質マネジメントシステムの認証を受けるレベルまでになりました。ネットワークのパーツを自由に組み合わせて、周波数をコントロールしてピュアな音を再生するので、ピュアコンと命名しました。ユニットや交換用のコイルの種類も年々増えて、今では組み合わせパターンは三千通りを超えている。